自作小説続きです。
ようやくヒロイン(予定?)も出てきて主要人物が揃いつつあります。

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    - 幕間 -

既に世界は変革していた。

1980年代後半。中東某国の遺跡で発見された新種のウィルスが発見された。
レネゲイドウィルスと名づけられたこのウィルスは、生物に感染することにより宿主の遺伝子自体を書き換え、超常的な能力を発揮させるレトロウィルスの一種であることが判明した。
ウィルスを発見したアメリカ合衆国は至急本国への輸送を開始したが、その最中に輸送機が撃墜されるという事件が発生した。
成層圏で撃墜された輸送機から積荷のウィルスが全世界へとばら撒かれたことにより、現在では世界レベルで大量の感染者が確認されている。
情報規制により積荷の内容は公表されなかった為、現在でもこのウィルスの話は秘匿とされており、感染者やそれに関連する者達が知るのみである。

レネゲイドウィルスを身に宿し生きる者。
人は彼らをオーヴァードと呼んだ。


    - 2 -

- ざわざわざわ
ホームルーム前の教室はいつものようにとりとめの無い雑談でざわついていた。
昨晩のテレビの内容を説明する者や今日の髪型を見せ合う者、放課後の過ごし方について相談する者など、大小いくつものグループに別れてめいめいの話に盛り上がる中、拓真は一人机に向かって漢字の書き取りを勉強していた。
「たっくん、もしかして国語の漢字テスト、勉強してこなかったの…?」
背後から覗き込んだ宇星が呆れたように呟く。
今日の一時間目は国語であり、既に2日前の授業で漢字テストを行うと通達されている。
今更詰め込んだところで限界はあるのだが、それでもやらないよりはマシという選択を取るのは真面目なんだか不真面目なんだか…。
「たっくんはやめろ。つーか今勉強してるんだから邪魔すんなって」
「『一夜漬け』ならぬ『その場漬け』ね。そんなので覚えきれるの?」
「大丈夫。俺のRAMはギガ単位だ。」
「RAMじゃ揮発性じゃないの…。ちゃんとHDDに書き込みなさいよね。」
RAMというのはコンピュータで使われるメモリのことで、動作は非常に高速だが電源を切ると内容がクリアされてしまうという欠点がある。
試験直前に詰め込んでもすぐに忘れるという自覚は当人にもあるらしい。
二人ともどちらかというとインドア派であり、パソコンは中学の頃から慣れ親しんでいる為、他の級友に比べると知識は深い。
おのずとこういった微妙な知識を使ったかけあいというのも日常の一部となっている。

「はいはい、みんな席に着きなさい。ホームルーム始めるわよー。」
そうこうするうちに担任の風都が来た為、拓真の『その場漬け』は強制終了となった。
朝のホームルームの後、1限目の授業が始めるまでにまだ時間があるので多少の余裕はある。
「きりーつ、きょうつけー、れいー」
「はい、おはようさん。さて、今日はいろいろあって忙しいのよねー。ちゃっちゃと終わらせるわよー?」
今日の風都の格好は、紺色のタイトスカートに白いシャツといういつもと同様の格好だったが、いつもであれば『うっとおしい』という理由で一纏めにしている腰まである黒髪をそのままにしていたり、校内にいる時はいつもかけている眼鏡をしていなかったりと、微妙に『忙しくて細かい所まで気が回らなかった』という雰囲気をかもし出していた。
「それじゃさっそく転校生の紹介ね。男ども喜べ。かわいい子だよー。日捺さん、入ってきていいわよー。」
(転校生…?)
既に新学期が始まって2ヶ月近く経ったこの時期に転校生というのも珍しい。
しかも、このクラスには既に新学期に一人転校生が来ているのだ。
同じクラスに転校生が二人続けて編入されるのはかなり珍しい状況と言える。
クラスがさらなるざわめきに包まれる中、入り口のドアを開けて一人の少女が入ってきた。
身長は150cm前後で、すらりとした体型だが、細いというよりは引き締まっていると言ったほうがよいだろう。
髪の毛は軽くウェーブがかかった黒髪で、後ろで細い三つ編みを1本垂らしている。
「あ、あの…、先生。か、かわいい子とか言われると入りにくいですから…」
「まぁまぁ、いいから自己紹介自己紹介、ね?よろしくー。」
「え、えーっと…。あの、ボクの名前は日捺・阿美と言います。父の仕事の関係でこんな中途半端な時期に引越しすることになりました。」
阿美が自己紹介をする横で風都が黒板に彼女の名前を書いていく。
「しゅ、趣味は本を読むことで、特に推理小説が好きです。あと、好きな食べ物は…」
「日捺さーん、お見合いじゃないんだからそこまで言わなくてもいいからねー?」
風都の突っ込みでどっと沸く教室。
拓真は一緒になって笑いながも頭の片隅で違和感を感じていた。
(なんだろう…彼女、どこか、懐かしい感じが…)
記憶には無いのだが、どことなく雰囲気が過去に会った人に似ているような感じ。
懐旧。
既視感。
「そんじゃ、日捺さんの席はー…井川の後ろの空いてる席でいいかな。」
風都の言葉に自然とクラス中の視線が拓真の後ろに注がれる。
それに合わせて阿美の視線も井川の方に向き…ぼんやりと過去の記憶に考えを巡らせていた拓真と、ふと、目が合った。
「!?」
瞬間、阿美の顔色が変わった。
驚愕。
一瞬浮かんだ表情は、しかし次の瞬間には元の困った笑顔に戻っていた。
クラス中の視線が拓真の後ろに向かっていた為、表情の変化に気が付いたのは拓真一人のようだった。
(なんだ…?今の…)
彼女は明らかに拓真の顔を見て驚いていた。
(彼女は俺のことを知ってるのか…?)
「騎馬ー。お前、転校生の先輩として日捺さんにいろいろと教えてあげてくれなー。」
阿美が拓真の後ろの座席に歩いていく間に風都が別な生徒に指示を出す。
騎馬・嵐。(きば・あらし)
新学期と同時に転入してきた男子生徒で、長身で容姿端麗、頭脳明晰といういろいろな意味でクラス中の憧れの的である。
県外の高校にいたらしいが、こちらも親の仕事の都合とかで家族ともどもS市に引っ越してきたらしい。
外見の割りに嫌味なところが無く、誰にでも親切に応対する為、1年の時から在学していれば生徒会長になれたのでは、とのもっぱらの噂である。
座席は阿美の右隣。つまり拓真の斜め後ろである。
「騎馬・嵐です。よろしく、日捺…阿美さん?」
「あ、えぇと…。よろしく、です」
(…?)
なんとなく、二人のやり取りがぎこちないような感じがしたのだが…特別確認するようなところもないので、首をかしげつつも拓真は意識を眼前へと戻した。
…と、目の端で動く影を見つけてふと目をやると前の方から丸めた紙が拓真の机に飛んできたところだった。
よく見れば前の方で宇星がこちらを見てニヤリと笑っていた。
嫌な予感が拓真の脳裏を掠める。
あの顔は何かおもしろいネタを見つけた時の顔だ。
丸まった紙を広げてみると、そこには宇星らしいきっちりした字体でメッセージが書かれていた。
『彼女、部員候補に完璧! 誘え誘えー!!』
なんとなく予想通りの内容にがっくりとくる。
とはいえ、他に部員候補の当てがあるわけでもない状況では断る理由も無い。
仕方なく了承のサインを送ると宇星は満足そうに頷いていた。
(まぁ、部活に誘うついでに世間話でも出来れば、昔会ったことがあるか確認出来るかもしれないしな)
とりあえず思考をポジティブに持っていって意識を切り替える。
今日はそんなことよりも漢字テストに集中しなければならないのだ。

「さて、転校生の紹介も終わったし、今日のホームルームはお終いー!」
「えー?」「それ早くねぇ?」「でも休憩時間増えるしなー」
普通ならもう少し出席を取ったり連絡事項があったりするのだがそれらもまったく無しというのは珍しい。
他の生徒からも不満半分、早く終わってうれしい半分といった反応がちらほらと見受けられる。
「さっきも言ったけどちょっと忙しいのよねー。あ、そうそう。そのせいで今日の1時間目は自習にするからねー。」
「…はぁ!?」
思わず大声を出してしまう拓真。
「何だー?井川、お前また当日に詰め込んでその場しのぎでもしてたのか?」
拓真の馬鹿正直な反応に風都の目がキラリと光る。
「あ、いや、なんでもないですはい!」
「ふーん?…ま、別にいいけどさ。次の漢字テストは抜き打ちでやるから気をつけろよー?」
「げ…マジかよ…」
拓真の反応に教室が笑いに包まれる。
日々真面目に勉強する、ということが苦手な拓真としては予定の判らない抜き打ちテストほど怖いものはなかった。
予定さえ判っていれば、冗談でもなんでもなく『一夜漬け』や『その場漬け』でほとんどの試験をどうにかしてきていたのだからある意味すごい。
「それじゃ何も無ければこれでほんとにホームルームはお終いねー。」
「きりーつ、きょうつけー、れいー」
挨拶とともに走り去るように教室を出て行く風都。
理由は不明だが本当に忙しいらしい。

「く…。今朝の俺の苦労は一体…」
拓真はいろいろな意味で打ちひしがれていた。
とはいえ、自業自得と言われればそれまでなのだが…。
(とりあえず、日捺さんを部活に誘わないとな…)
後ろを確認すると、既に席に彼女の姿は無かった。
「…あれ?」
「たっくん…遅い!」
げし。
背後から後頭部への一撃。
「ちょ…おま、何すんだよっ」
振り返れば宇星がチョップを放った状態で待ち構えていた。
「何すんだよ、じゃないわよ。たっくんがぼけーっとしてるから日捺さんと騎馬くん、どっか行っちゃったじゃないさ」
左手を腰に当てて右手をぶんぶんと振り回す。
放っておくとさらに追加の打撃が飛んできそうな勢いだ。
「うわわわわ。わかったわかった。どうせ校内の案内でもしてるんだろうからちょっと追いかけて話してくるよ」
彼らのクラスだけホームルームが早く終わった為、まだ校内を出歩いている生徒は少ない。
今なら走って追いかければ充分見つけられるだろう。
「ついでに騎馬くんも誘っておいてね。確か彼も部活とかやってなかったはずだから。」
「へいへい。りょーかいー。」
とりあえずこれ以上の追加打撃を避ける為にも早々に話を切り上げて拓真は廊下へと飛び出していった。

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書き直すたびに風都先生のキャラが変わってたのは秘密だっ。(ぇー

しかし、どう見ても阿美よりも宇星の方がヒロインっぽいですよねぇ…。( ̄▽ ̄;
今後の阿美の活躍に期待ですw

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